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2008年11月28日

嘘で固めたインターネットと消費者の暴動 - 『情報崩壊バブルの崩壊』(山本一郎)

[ 投稿者 : fratdrive ブログ : [ f ]ふらっとどらいぶログ カテゴリー : fratdrive日記 ]

「切込隊長」山本一郎氏が書いた『情報崩壊バブルの崩壊』(文春新書)を買って読みました。面白かった。
本当に価値のある情報、ネットにテキスト化されて掲載されていない、Googleがその巨大データベースのインデックスに登録していない重要な情報は、結局のところ属人的な情報パスを使わなければ入手することができないのは言うまでもない。いや、むしろ情報の価値という観点から言うならば、文字・テキスト化されインターネット上のアーカイブとして誰もが検索し閲覧できるような内容が、果たして本当に価値を持つものなのかどうか、よく考えてみるべきだろう。
「ネットには全てがある」と誤解している方がもしいたら、これは到底受け入れられない言説でしょうが、ネット漬けで世界を知った気になるのは単なる誤解であって、むしろ重要な情報から疎外された、「いろいろ知っているわりには大事なことは何も知らないし知らされていない」情報格差社会の弱者ということになるかもしれません。気をつけましょう。

ネット社会が一般人の購買に強い影響力を与えていることはマーケティング上多くの事例を蓄積する中で分かりつつあるが、一方で多くのネット上の工作、煽動の技法の確立という悪しき側面も見受けられるようになった。現に、利用者に対する影響が大きいとされるサービス業においては、ネット上でそれらの評価を好意視する書き込みを集中的に流布するスパム業者が堂々と営業している。それらは表向き、企業やサービスに対する誹謗中傷をネットで監視するサービスを行い、悪い風評に対しては書き込み者に警告・削除する一方で「より深いサービス」を求める企業らに対しては、別会社を紹介する形で内々に好意的な評価をネット上に一定量ばら撒くことで対価を得ている。
…映画サイトで言うならば、映画を見た経験談を元に最大5つ星や100点満点のレビューをユーザーに投稿させ、それらの平均点で観た者の反応を表す。…経験談を伴う評価を記している5人に1人ぐらいの割合で、意図的に好意的な評価を書き込む、いわゆる「サクラ」を混ぜるケースがある。
…特に、単館上映など広告宣伝に割く費用が充分捻出できない作品では、知名度的に劣るという理由で、より効果的な広告宣伝を考えてこれらの評価サイトやmixiなどのコミュニティで映画そのものの評価が高いことを宣伝するという形態が取られる。
映画に限らず、デジカメなどの家電、旅行ツアー、ネット証券など、かなり広い範囲でネット内での評価を上乗せするためのスパム行為がプロモーション会社の手によって行われている可能性がある。…ネットに出ている情報はユーザーの生の声を反映させる分、一般のマスコミより正確という受け取り方をしているユーザーにとっては、騙されるためにネットを眺めているも同然の事態に陥ってしまう。
…ネットの匿名性を悪用し、ブランド物や映画を評論しているブログやプロフの半分以上が「サクラ」になっている。有力な業者の一部は、彼らがもともとビジネスで資金を得るに至った出会い系サイトや風俗サイト出身であって、女性と出会いたい男性を釣るために素人女性のフリをして書き込みをするアルバイトの女性に業務をさせるためのノウハウをそのまま生かしている。
さすが切込隊長、実態をリアルにご存知の模様です。『けなす技術』(2005年)では「何かを褒めることについては熟達した日本人において、何かをけなす議論の技術があまりにも不足しているように思える」と書いてましたが、事態は当時よりもさらにひどいことになっているということでしょうか。「インターネットは嘘ばかり」傾向がさらに強まり、人々がそれに気づいたら、ネットなんて誰も見向きもしない無駄なインフラとなって、後は野となれ山となれ。気をつけましょう。
ネット内でなぜバッシングが起きやすく、現実社会に対して批判的な言論が成立し支持されやすいかは諸説あるが、まとめるならば概ね3点に分けられる。
まず第一に、ネットでのこれらの言論や風評を、具体的な検証なしに鵜呑みにする程度の社会知識しかない人がネット社会での議論で声が大きいことにある。これは、無職であったり、向精神薬などを常用している攻撃性の高い人間は、ずっと在宅だったりネット喫茶などに常駐しているためネット社会での参画により多くの時間を割くことが可能であり、比較的声が大きいことが挙げられる。基本的に彼らは暇人であり、自分の参画しているネット社会をこよなく愛しているだけでなく、ネットで流通している情報がマスコミが報じる記事より事実に近いと常に考える傾向にあるためだ。
きょう昼飯を食べたうどん屋で2人のオバさんが食後も延々と無駄話に花を咲かせていましたが、最初は芸能人の話で、次は近所のスーパーの話。つまりは「純消費者」ともいうべき記号化された存在ともいえるわけですが、ここで指摘されている彼らもまた消費者、しかも「マスな消費者」といえるでしょう。「マスな消費者」は世間でよく知られた人物や事柄にしか興味を示さないので、結果的に、彼らが一斉に興味を示す対象はごく限られたものになります。しかも「旬」の期間にしか目を向けないことから、あたかも虫メガネで太陽光線を集めたように彼らの視点が一時期一点に集中、破壊的な威力を持つのだと考えられます。

(なので、そうした「マス」な話題、「旬」な話題をほとんど取り扱わない当ブログは非常にのどかで閑古鳥の鳴く場末サイトと化しているとも考えられます)
動画配信などより高度でデータを大量に消費するコンテンツの流通の大部分をネットが担うんだとなったとき(要するに、地上波テレビよりネットで動画を観る層が増えてきたりしたとき)、インフラ業者やコンテンツ配信業者はネットを支えきれるのだろうか、という点だ。動画配信を日常的に観るなど、より多くの転送量を利用したいユーザーが、仮に現在の2倍になった場合、ある通信プロバイダの予測では利用者あたり70%から80%程度のコスト増を見込まなければならないと試算している。
しかし、実際の挙動に関するテストを実施したところ、そのプロバイダが保有する回線などインフラ資産をどんなに増やしても、一定のところから上位のレイヤーから落ちてくる転送量が確保できなくなる可能性が高いことなど、ネット関連各社の努力だけではどうにもならないことが分かりつつあるというのが現状だ。もともと、ネットは技術的な条件として、テレビのような低価格で大量の情報を一斉に頒布する、というニーズには向いていない。
そりゃそうですね。

こないだテレビに出てたCMプランナー(?)の人が、「テレビはみんなで見る、ネットはひとりで見る、役割分担を明確化すれば求めるものがおのずとわかってくる」みたいなことを言っていました。当たり前のことですが説得力があった気が。たぶんネットの動画配信はテレビのポジションを置換する存在にはならない。「マスな消費者」が大多数であり続ける限り、テレビはネットに侵食されない。…彼らを大量生産し続けているのが他ならぬテレビだともいえるわけですが。
無料文化というネットにカネを払わないユーザー優先の世界ができたはいいがそれを支えていたのは世界の金余りであって、ユーザーの誰もがお金を払わず、ただ安いインフラ代金程度で未来永劫ネットが成長していくわけがない。
…これからやってくるのは世界経済冬の時代であって、社会の一体性や国体のあり方について、いま一度考え直さなければならない時期がくるだろう。近隣諸国で経済破綻したときに、我が国がそれを救うか救わざるか判断しなければならないこともあるだろうし、移民が押し寄せてくる可能性だって否定できない。
…世界が経済や外交の新しいルール作りを進めていくにあたって、日本はどれだけの役割を担うことができるのだろうか。…混乱期を経て、新しい知識、新しい枠組みをどれだけ諸外国に提供できるかで、日本の命運は決まってくるかもしれない。
「情報革命バブルの崩壊」にとどまらず、ルール作りが大事だということですね。

「ネット無料文化」は、消費者優先のなれの果て。消費者優先といいながら実は「マスな消費者」すなわち「十把一からげ」的な顔のない存在すなわち「千と千尋の神隠し」に出てくる「カオナシ」みたいな扱いを生産者サイドは実はしていて、その疎外感がネットイナゴだったりクレーマーだったりの私利私欲的正義の噴出という事態になっていると考えると、日本人はおとなしいから暴動なんか起こさないと思われていますが実は散発的に暴動が起きているんじゃないかともいう気もします。

そんな不毛な関係から脱却し、
(消費者→生産者)ちゃんとした対価を支払う
(生産者→消費者)顔のある存在として認知する
…という関係を築き、価値のある情報を核にした一種のコミュニティを形成することが、これから求められる枠組みなのではないかと思ったりします。
「タダより高いものはない」という言葉通りなのかもしれません。

ところでこの本の帯には、
「ネット社会」「ネット広告」はバブルだった!
と書かれています。
あのバブルの頃、ぼくは乃木坂で働いていて、六本木には仕事でしばしば出向きました。夜の六本木の、あの浮かれた空気感はいまでも忘れません。そして、いまのいわゆる「ネット業界」も、あれによく似た空気感に包まれている気がします。
六本木交差点にあった本屋(誠志堂書店)はよく使いました。ある時、そこで読んだ経済誌に「バブル崩壊」というワードを見つけ、「ああ、この状況はバブルだったんだ〜」と、妙に腑に落ちたことも、いまでも覚えています。



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